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伏魔殿より愛をこめて

~ 『熾天使長閣下の華麗なる業務日誌』 ~

2008年10月の記事

Toy Soldiers(後編)

その事件が起きたのは、プレイヤーキャラクターがメアリ・ケリーを匿った日の夜である。

イーストエンドのホワイトチャペル付近において、売春婦の少女が惨殺されたのだ。
少女の名前はポーラ。 メアリ・ケリーが養っていた孤児たちのひとりであった。
彼女は少しでも生活費を稼がねば、と危険と分かりつつも深夜の“営業”を行っていたのである。

ポーラもまた内臓を引きずり出された、無残な死体となって発見された。
彼女がもたれ掛かっていた壁には、「Jack the Ripper」という真っ赤な血文字が残されていた。
スコットランドヤードは、「第5の殺人」として現場検証にあたった。

ポーラと同じく付近で“営業”をしていた娼婦は、黒い大きな体躯の影を見たと証言した。
“切り裂きジャック”は、ひとならざる異形の魔物――人狼なのだろうか。


しかしながら、プレイヤーキャラクターたちはポーラの殺害に疑問を感じていた。
まず、“殺害予告状”はメアリ・ケリー宛てに出されていたはずである。 ポーラは無関係だ。
さらには彼女の死体内には、ブリキの人形は残されていなかった。 この点も異なる。
そして、最大の疑問は壁に残された――「Jack the Ripeer」の血文字だ。

聡明な諸君は、既にお気づきだろう。
“殺害予告状”に記されていた、犯人の署名は――「Jack the Rippers」。 複数形なのだ。
しかしながら、今回壁に残された署名(?)は「Ripper」と単数形。 つまりは……

便乗犯――もうひとりの“切り裂き”ジャックが、「連続殺人事件」という舞台に登場したのだ。


時を同じくして、ドクター・スタンレーの医院。
彼はイーストエンドで、堕胎を専門に行う外科医として生計を立てていた。
プレイヤーキャラクターが彼のカルテを確認すると、そこには殺された4名の名前が記されていた。
彼女たちは、全員スタンレーの患者だったのである。 そして、そこにはケリーの名前もあった。

メアリ・アン・ニコルズが堕胎手術を受けたのが、昨年の8月の31日。
アニー・チャップマンが9月8日。 エリザベス・ストライドとキャサリン・エドウズが9月30日。
彼女たちが手術を受けた日と殺害された日は、見事なまでの一致を見せた。
そして、メアリ・ケリーが堕胎手術を受けた日――それは、“殺害予定日”11月9日であった。

これは一体、なにを意味するのであろうか。


容疑者のひとり、モンタギュー・ジョン・ドルイットは貧乏弁護士であった。
彼は自惚れの強い男で、自分がそのような社会の底辺に居ることを我慢できずにいた。
同僚からは「うだつのあがらない男」と陰口を叩かれ、娼婦にすら「貧乏人」と罵られる始末であった。
彼の精神は、少しずつ少しずつ壊れかけていった。

モンタギューの手記には、もの凄い勢いで殴り書きされた罵詈雑言の羅列が残されていた。
同僚に対する罵倒、娼婦たちに対する呪詛、世間に対する怒りの言葉。
もっと自分を見てほしい。 もっと自分を評価してほしい。 もっと、もっと、もっと。

そして――モンタギューには、ポーラが殺された夜のアリバイが無かった。
 

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